学習目標
本講を終えると、以下の問いに答えられるようになる。
- 「プロトコル」とは何か、身近な例で説明できる
- なぜネットワークは「層(階層)」に分けて考えるのかを説明できる
- TCP/IP の4つの層(アプリケーション/トランスポート/インターネット/リンク)それぞれの役割を一言で言える
- 「カプセル化」とは何か、封筒のたとえで説明できる
- HTTP・TCP・IP・Ethernet のような代表的なプロトコルが、それぞれどの層に属しているか分かる
- (発展)OSI参照モデルとTCP/IPモデルの違いを概念レベルで把握する
情報Iの範囲について: 高校情報Iでは TCP/IPの4階層 と「層ごとに役割が分担されている」ことを押さえれば十分です。OSI参照モデルの7層名やPDU(セグメント/データグラム/フレーム)の用語暗記、syntax/semantics/timing といった専門用語は 発展的な内容 として扱います。
本講は
第1回(ネットワークの構成要素) と「パケット交換」(第2回) の続きにあたる。データを
どんな約束で やり取りするのか、その「言葉と封筒のルール」を扱う回である。深い仕組み(ヘッダの中身や TCP のハンドシェイク)は
標準 のレッスンで学ぶ。
このレッスンの目次
プロトコルとは何か
プロトコル(protocol) は、日本語で言うと 「通信のための取り決め」。
通信する両者が 同じ手順・同じ言葉・同じ順番 でやり取りしましょう、と決めたルールのことです。
ネットワークでデータを送りたい相手と「会話」を成立させるには、どんな順番で何を送るかをあらかじめ決めておく必要があります。
POINT
プロトコル = 「両者が事前に合意しているやり取りのルール」。同じプロトコルを使う相手としか正しく通信できない。
身近なたとえ:電話のプロトコル
たとえば日本で電話をかけたとき、相手はまず 「もしもし」 と言いますね。あなたも 「もしもし、〇〇です」 と返す。これは小さな「プロトコル」です。もしいきなり用件から話し始めたら、相手は「え、誰?今のなに?」と困ってしまいます。
図の見方:電話の冒頭にも「もしもし→もしもし→用件」という決まった順序がある。最初の挨拶を飛ばすと相手は誰だか分からず会話が始まらない。コンピュータ同士もこれと同じで、開始の合図・本文・終了の合図といった順序を厳密に決めておく必要がある。
コンピュータの場合
機械同士のやり取りはもっと厳密です。人間なら「あ、ちょっと言い忘れた…」と臨機応変に直せますが、コンピュータは 「決められた順番・形どおり」 でないと、もう何が来たのか理解できません。だから世界中で 同じプロトコル を使うように標準化されています。たとえば Web を見るときは HTTP という決まりに従ってブラウザとサーバが会話します。
もっと詳しく:プロトコルの正式な定義 発展
(以下は情報Iの範囲を超える発展的な内容です。英語語句が多いので、無理に覚える必要はありません。)
プロトコルは正式には次の3つを定めています。
- 構文(syntax):メッセージの形(どこに何を書くか)
- 意味(semantics):そのメッセージは何を意味するのか(指示なのか応答なのか、エラーなのか)
- タイミング(timing):いつ送るか、どれくらい待つか、応答がなければどうするか
RFC(Request for Comments) という公開文書で世界中の研究者・技術者が議論して仕様を決めています。HTTP/1.1 なら RFC 9110, IP なら RFC 791 などです。標準 編で詳しく扱います。
考えてみよう: 自動販売機にお金を入れて飲み物を買うときも、「お金を入れる→ボタンを押す→飲み物が出る→お釣りが出る」という決まった流れがあります。途中の手順を飛ばしたり順番を変えるとうまくいきません。これも一種のプロトコルだと言えますね。日常のなかにある「プロトコル」を他にも探してみよう。
情報Iで覚えることプロトコルとは、通信する両者が事前に合意した 手順・形式・順番のルール。同じプロトコルを使う相手としか正しく通信できない。
なぜ階層に分けるのか
インターネットは、ケーブルの電気信号からアプリ画面のメッセージまで、無数の仕組みが組み合わさって動いています。これを 1つのプロトコルで全部まとめて 設計しようとすると、複雑すぎて誰も完成させられません。そこで 機能ごとに「層」に分けて、各層を独立に設計するという発想が生まれました。
POINT
階層化の目的は 「分担」 と 「交換可能性」。各層は自分の仕事だけに集中し、上下の層とは決められた窓口だけでやり取りする。
分担の例:海外への手紙
あなたが海外の友達に手紙を送ることを考えましょう。文面を書くのはあなた。封筒に住所を書いて切手を貼るのはあなた、ですが、その後はどうなりますか?
- 近所のポストに投函(あなたの仕事)
- 郵便局員が回収して仕分け(郵便局の仕事)
- 飛行機やトラックで運ぶ(運送会社の仕事)
- 相手の国の郵便局が受け取って配達(現地の郵便局の仕事)
あなたは 飛行機の操縦も、トラックの運転手の采配も、相手国の住所体系も知らなくていい。それぞれの専門家(層)に任せられるからです。
図の見方:右側の点線は、上の担当が作ったものを次の担当が受け取り、自分の仕事を付け足す場所を表している。上の層は下の層の細かい仕組みを知らない。「便箋を書く人」は飛行機の機種を気にしない。「郵便局」は手紙の文面を読まない。それぞれが自分の仕事に集中できる。これが階層化の威力。
もう1つのご利益:交換できる
階層に分かれていると、ある層の 中身だけ入れ替える ことができます。たとえば配送方法が船から飛行機に変わっても、あなたの便箋の書き方は変えなくてよいですよね。ネットワークも同じで、たとえば下の層が 有線LAN から Wi-Fi に変わっても、Webブラウザ(上の層)はそのまま動きます。便利!
Q. もしネットワークが「1枚岩」(階層がない設計)だったら、何が困りそう?自分なりに考えてからクリック。
- 新しい技術(光ファイバ・5G・Wi-Fi 7…)が出るたびに、Webブラウザもメールアプリも全部書き直す必要がある
- 世界中のメーカが 巨大な仕様一本 に合意しないといけないので、永遠に決まらない
- 不具合が出ても、どこが原因か切り分けられない(全部が絡まり合っている)
だから「機能を層に分けて、層と層の境目だけ標準化する」やり方が選ばれました。
つながる知識: ソフトウェア開発全般でも「責務を分けて、境界をきれいにする」(関心の分離)はとても大事な原則。情報Iの「アルゴリズム」「プログラミング」の単元で出てくる 関数 も、似た発想で複雑さを抑えています。
情報Iで覚えることネットワークは機能ごとに 階層 に分けて設計されている。各層は自分の役割だけに集中でき、ある層の技術が変わっても他の層に影響しにくい(分担と交換可能性)。
TCP/IP の4階層モデル
インターネットを支えている階層モデルが TCP/IP モデル です。上から アプリケーション層 / トランスポート層 / インターネット層(ネットワーク層) / リンク層 の4つに分かれています。各層がそれぞれ違う「お仕事」を担当します。
POINT
TCP/IP の各層を一言で言うと:
アプリケーション = どんな 用件 でやり取りするか(Web・メールなど)
トランスポート = どこまで 確実に 届けるか(信頼性の管理)
インターネット = 世界のどこへ 道順 を決めて届けるか(IPアドレス)
リンク = 隣の機器 との実際のやり取り(ケーブル・電波)
図の見方:TCP/IP は4層構造。図中の L は Layer(層)の略で、L4 は「第4層」、L1 は「第1層」を表す。上の層ほど「人間に近い」(Webやメールの世界)、下の層ほど「機械・物理に近い」(ケーブルや電波の世界)。各層は自分の役割しか知らなくてよい。
各層の役割をもう少し
上位の層(アプリケーション・トランスポート)
「何をやり取りするか」 を扱う。Webページなのかメールなのか、確実に届ける必要があるのか…といった 意味のある中身 を担当。
下位の層(インターネット・リンク)
「どうやって届けるか」 を扱う。世界のどこに届けるか、隣の機械にどう信号を送るか…といった 運搬の仕組み を担当。
小問:もし インターネット層(IP) がまるごとなかったら、いちばん困ることは?
正解: B。インターネット層(IP)の主な仕事は「住所(IPアドレス)を見て、世界のどこへ届けるかの道順を決めること」。これがないと、隣のLANまでは届いても、そこから先(別のネットワーク)へは進めない。Aは文字コードの話なのでアプリケーション層、Cは物理層・電気の話で別の層。
考えてみよう: 「TCP/IP」という名前は、たくさんあるプロトコルの中でも特に有名な TCP(トランスポート層) と IP(インターネット層) の頭文字を取ったもの。実は他にもたくさんのプロトコルが組み合わさってこのモデルを支えています。
情報Iで覚えることインターネットは TCP/IP の4階層(アプリケーション/トランスポート/インターネット/リンク)で動いている。上の層ほど人間に近く、下の層ほどケーブル・電波に近い。
カプセル化:封筒の中に封筒を入れる
階層モデルで データが層を下りていくとき、各層は自分の「ヘッダ(宛先や管理情報を書いた札)」を付け足します。封筒の中にもう1つ封筒を入れて、さらに大きな封筒に入れて…と包んでいくイメージです。これを カプセル化(encapsulation) と呼びます。
大事な点として、アプリからのデータが大きいとき(画像や動画など)は、まず小さく分割してから、それぞれにヘッダを付けていきます。「1つのデータ全体に一度にヘッダを付ける」のではなく、「分けたうえで、各かたまりに別々のヘッダを付ける」イメージです。
POINT
送信側では ① まず大きなデータを小さく分割し、② 分割した1つ1つに各層のヘッダを足す。受信側では逆順にヘッダを剥がし、最後に並べ直して元のデータに戻す(デカプセル化)。各層は自分のヘッダだけ読み、上の層の中身はただのデータ列として扱う。
ステップで見るカプセル化
ステップ1. アプリ(例: ブラウザや動画アプリ)がメッセージを作る。動画や画像つきのページなど、データが大きいことも珍しくない。点線はこのあと分割される位置のイメージ。
ステップ2. トランスポート層は、まず大きなデータを 小さなかたまりに分割 する。その上で各かたまりに TCP ヘッダを付ける。これで「セグメント」が複数できる。TCP ヘッダには、どのアプリ向けか(ポート番号)・順番(これがあとで並べ直すのに使われる)・確認応答などの情報が入る。
ステップ3. インターネット層がさらに IPヘッダ を付ける。これでパケットは「データグラム」になる。IPヘッダには 送信元と宛先のIPアドレス が書かれている(=世界のどこ宛か)。
ステップ4. リンク層がさらに Ethernetヘッダ(と末尾の検査用フィールド) を付ける。これで「フレーム」になる。隣の機器のMACアドレスが書かれていて、隣まで運ぶ役目。
ステップ5. フレームが0と1のビット列に変換され、 ケーブルや電波 で実際に送信される。受信側では逆順に「Eth → IP → TCP」とヘッダを剥がしていき、最後にアプリへメッセージが届く(デカプセル化)。
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図の見方:アプリが大きなデータを作ると、まずトランスポート層で かたまりに分割 され、各かたまりに TCP ヘッダが付く(ステップ2)。そこから下の層では各かたまり(セグメント)に対して、IP ヘッダ・Ethernet ヘッダ…と順に包んでいく。受信側ではこの逆をやり、最後に分割したかたまりを並べ直して元のメッセージに戻す。
ステップで見るデカプセル化
ステップ1. 受信側には、リンク層のヘッダ・IPヘッダ・TCPヘッダ・データを含むフレームが届く。まずリンク層が Ethernet 部分を確認する。
ステップ2. リンク層は Ethernet ヘッダや末尾の検査用フィールドを外し、中身をインターネット層へ渡す。ここで「隣から正しく届いたか」を見ている。
ステップ3. インターネット層は IP ヘッダを外す。IPヘッダには送信元・宛先IPアドレスなどがあり、ここを見たあとの中身をトランスポート層へ渡す。
ステップ4. トランスポート層は TCP ヘッダを外す。TCPヘッダの番号などを手がかりに、分割されて届いたデータ片を正しい順に並べ直す。
ステップ5. ヘッダが外れ、順番も戻ると、アプリが読める元のメッセージになる。受信側の処理は、送信側のカプセル化を逆からたどる動きになっている。
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図の見方:「次へ」で、受信フレームから外側のヘッダを逆順に外していく。リンク層は Ethernet、インターネット層は IP、トランスポート層は TCP を見て、最後に分割データを並べ直してアプリへ渡す。
層ごとの呼び方 発展
ここからは情報Iの範囲を超える発展的な内容です。情報Iでは「層ごとにヘッダ(管理情報)が付け足される」ことが分かれば十分で、PDUの個別名(セグメント/データグラム/フレーム)を暗記する必要はありません。
同じ「データの塊」でも、どの層から見るかで呼び方が変わります。覚えなくてもいいですが、教科書や記事に出てきたとき混乱しないように。
| 層 | 呼び方 | 付け足されるヘッダ |
| アプリケーション層 | メッセージ(message) | (なし、もしくはアプリ独自) |
| トランスポート層 | セグメント(segment) | TCP / UDP ヘッダ |
| インターネット層 | データグラム(datagram) | IP ヘッダ(送信元・宛先IPアドレス) |
| リンク層 | フレーム(frame) | Ethernet ヘッダ(MACアドレス) など |
日常会話では全部まとめて 「パケット」 と呼ぶことが多い。技術的な文脈では層に合わせて使い分ける、と覚えておけば十分です。
端から端まで:通信の全体像
家庭のPC(送信側) から 海外のWebサーバ(受信側) まで、データはどう旅をするのでしょうか。途中には スイッチ や ルータ がいて、それぞれ自分の担当の層までしか見ません。これも階層化のおかげでうまく動きます。
図の見方:データはアプリ層から下に降りて(カプセル化)、ケーブルを伝わって、相手側で下から上に登っていく(デカプセル化)。スイッチ はリンク層までしか見ない、ルータ はインターネット層までしか見ない。これが「層を分けたおかげで中継機器がシンプルでいられる」ということ。
各層で活躍する装置
| 装置 | 担当する層 | 仕事 |
| PC・スマホ・サーバ | すべての層 | 送る側・受け取る側として全部の層を使う |
| ルータ | 〜インターネット層 | IPアドレスを見て道順を決める |
| スイッチングハブ | 〜リンク層 | 同じLAN内で宛先MACアドレスを見て転送 |
| ハブ・リピータ(歴史的) | 物理層のみ | 信号を中継するだけ。中身を見ない現在はほぼ使われない |
つながる知識: ハブとスイッチの違いは 第1回 で扱いました。「層」の言葉で言い直すと、ハブは 物理層しか分からない 装置、スイッチは リンク層まで分かる 装置、ルータは インターネット層まで分かる 装置、となります。
情報Iで覚えること中継機器は担当する層が違う:スイッチはリンク層まで、ルータはインターネット層(IP)まで見て転送する。階層化のおかげで途中の機器は必要な層しか見なくてよい。
各層の代表プロトコル
各層には複数のプロトコルがあります。ここでは 名前と役割をざっくり知る ことが目標。中身の細かい仕組みは 標準 編で扱います。
アプリケーション層のプロトコル
「Webを見る」「メールを送る」「ドメイン名を調べる」など、ユーザに見えるサービスを実現するためのお約束です。代表的なものを少しだけ。
Q. 「メール送信」「Webページ取得」「ドメイン名→IPの変換」、それぞれに使われるプロトコルは何でしょう?思いついた順に挙げてからクリック。
- メール送信 ⇒ SMTP (Simple Mail Transfer Protocol)
- メール受信 ⇒ POP3 / IMAP
- Webページ取得 ⇒ HTTP / HTTPS (HyperText Transfer Protocol)
- ドメイン名(例: example.com) からIPアドレスを調べる ⇒ DNS (Domain Name System)
- ファイル転送 ⇒ FTP (近年は SFTP / HTTPS が主流)
これらは全部 「アプリケーション層のプロトコル」 です。下の3層(トランスポート/インターネット/リンク)は気にせず、自分の用件だけに集中できます。
トランスポート層のプロトコル
送信者と受信者の 端から端まで をどう管理するかを決めます。代表は2つだけ覚えれば十分です。
TCP(Transmission Control Protocol)
「確実に届ける」 プロトコル。
・通信の前に相手と「これから始めますね」と合図を交わす(コネクション型)
・途中でデータが消えたら自動で送り直す(再送)
・順番が入れ替わっても並べ直してから渡す
・Web・メール・ファイル転送など、欠けたら困る用途に使う
UDP(User Datagram Protocol)
「速さ重視で投げっぱなし」 プロトコル。
・事前のあいさつなし(コネクションレス)
・届かなくても確認しない
・代わりにオーバーヘッドが小さく速い
・動画ストリーミング・オンラインゲーム・DNSなど、多少欠けても進む方が大事な用途に使う
考えてみよう: 動画配信で1コマ落ちても見続けられるけど、銀行の振込で「金額」が落ちたら大事故。用途に合わせてTCPかUDPかを選ぶ、という設計の妙がある。
インターネット層のプロトコル
主役は IP(Internet Protocol)。世界中のすべてのコンピュータに IPアドレス という番号を割り振り、その番号を頼りに 道順 を決めて運びます。
IP は ベストエフォート(できる限りの努力)型。「届くように頑張りますが、保証はしません」という設計。確実性が必要なら、その上に乗っている TCP が責任を持つ、という分担になっている。
リンク層のプロトコル
「隣の機械」までデータを届けるための仕組み。代表例:
- Ethernet(イーサネット):有線LANの最も普及している規格。LANケーブルでパソコンとスイッチをつなぐとき、知らずにこのプロトコルを使っている
- IEEE 802.11(無線LAN / Wi-Fi):電波を使うリンク層。「Wi-Fi」は実は商標で、規格そのものは IEEE 802.11 シリーズ
- PPP(Point-to-Point Protocol):2点間を直接結ぶための古典的なプロトコル(電話回線時代の名残)
図でまとめると
図の見方:層ごとに代表的なプロトコルを並べた。1つの層の中にも複数の選択肢があり、用途に合わせて使い分ける(例:確実性重視なら TCP、速度重視なら UDP)。
情報Iで覚えること代表プロトコルを層と結びつけて覚える:アプリ層=HTTP/HTTPS・SMTP・DNS、トランスポート層=TCP(確実)/UDP(高速)、インターネット層=IP、リンク層=Ethernet・Wi-Fi。
参考:OSI参照モデル(7層)とのちがい 発展
ここからは情報Iの範囲を超える発展的な内容です。情報Iで押さえるべきは TCP/IPの4階層 までで、OSIの7層名は「こういう整理の仕方もあるんだな」と眺める程度で構いません。
教科書には OSI参照モデル という7階層モデルもよく出てきます。これは ISO(国際標準化機構) が考えた「理想の階層モデル」で、実際のインターネットで動いているのは TCP/IP の方ですが、概念整理のために OSI もよく参照されます。
TCP/IP モデル(現実)
実際にインターネットで使われているのは TCP/IP の4階層。シンプルで実用的。
- アプリケーション層:ユーザに見えるサービス(HTTPなど)
- トランスポート層:端から端までの品質管理(TCP / UDP)
- インターネット層:世界中への道順決め(IP)
- リンク層:隣の機械との物理的なやり取り(Ethernet / Wi-Fi)
OSI 参照モデル(理想)
OSI参照モデルは 7階層。研究・教育の文脈でよく登場する。
- 第7層 アプリケーション層:アプリ向けインタフェース
- 第6層 プレゼンテーション層:データ形式の変換(文字コード・暗号化など)
- 第5層 セッション層:対話の開始・終了の管理
- 第4層 トランスポート層:端から端までの管理
- 第3層 ネットワーク層:道順を決める(=TCP/IPの「インターネット層」相当)
- 第2層 データリンク層:隣との通信
- 第1層 物理層:電気信号・電波そのもの
2つを並べて比較
図の見方:OSIの上3層(セッション・プレゼンテーション・アプリケーション) は TCP/IP では 1つのアプリケーション層 に統合されている。下2層(物理・データリンク)は TCP/IP の リンク層 にまとめられる。中間の2層(ネットワーク・トランスポート)はほぼ1対1に対応する。
現実のインターネットで動いているのは TCP/IP(4層)。OSIは 概念を整理するための共通言語 として使われる。「第3層スイッチ」「レイヤ7のロードバランサ」のような業界用語は OSI の番号付けに由来する。
もっと詳しく:なぜ OSI は普及しなかったのか
1980年代に OSI と TCP/IP がライバル関係でしたが、TCP/IP は 「動くものを先に作る」 という現場主義で、研究機関や大学で実装が進み、Unix と一緒に世界に広まりました。一方 OSI は仕様策定が長引き、製品が出揃う頃には TCP/IP が事実上の標準になっていた、というのが大まかな経緯です。それでも OSI の 7層モデル は、ネットワークを論理的に分けて議論するための言葉として今も生きています。
まとめと用語チェック
SUMMARY
1. プロトコル = 通信の取り決め(順番・形式・意味の合意)
2. ネットワークは 機能ごとに層に分けて 設計されている(分担・交換可能性のため)
3. インターネットの実装は TCP/IP の4層:アプリ / トランスポート / インターネット / リンク
4. 送信時は層ごとに ヘッダを足して いく(カプセル化)、受信時は 剥がして いく(デカプセル化)
5. 各層には代表プロトコル:HTTP / TCP / IP / Ethernet
6. (発展)教科書ではよく OSI 7層 も出てくる。実装はTCP/IP、概念整理はOSI、と理解すれば十分(情報Iでは TCP/IPの4階層 を中心に押さえれば OK)
用語チェック
| 用語 | 1行説明 |
| プロトコル | 通信のための取り決め。両者が合意した手順・形式 |
| 階層化(レイヤリング) | 機能ごとに層を分けて設計する考え方 |
| TCP/IP モデル | インターネットで実際に使われている4階層モデル |
| OSI参照モデル | ISO が定めた理想の7階層モデル(概念整理に使う) |
| アプリケーション層 | HTTP・SMTP などユーザに見えるサービスの層 |
| トランスポート層 | 端から端までの通信品質を扱う(TCP / UDP) |
| インターネット層 | IPアドレスで道順を決める層 |
| リンク層 | 隣の機器との物理的なやり取りの層(Ethernet / Wi-Fi) |
| カプセル化 | 各層が自身のヘッダを付け足してデータを包むこと |
| ヘッダ | 各層が付け足す管理情報(宛先・順番など) |
| パケット | 分割して送られるデータの塊。広い意味で各層の単位の総称 |
| セグメント / データグラム / フレーム | それぞれトランスポート / インターネット / リンク層での呼び名 |
| HTTP | Webページをやり取りするためのアプリ層プロトコル |
| TCP | 確実に届けるトランスポート層プロトコル |
| UDP | 速さ重視・投げっぱなしのトランスポート層プロトコル |
| IP | 世界中のホストを識別し道順を決めるインターネット層プロトコル |
| Ethernet | 有線LANで広く使われているリンク層プロトコル |
NEXT: 次回(第4回)は、インターネット層で使われている 「IPアドレス」 と 「ドメイン名」 をくわしく見ていく。今回出てきた 192.168.1.10 のような数字、example.com のような名前が、それぞれどう使われ、どうつながっているのかを学ぶ。
確認問題
問1. 「プロトコル」の説明として最も適切なものを1つ選べ。
次の選択肢から最も適切なものを選択してください。
A. ネットワーク機器の中で動いているCPUの種類のこと
B. インターネット回線の物理的な太さ(帯域幅)のこと
C. 通信を成立させるために両者が事前に合意しているやり取りの取り決め
D. ネットワーク上のデータを暗号化する技術全般を指す
正解:C
プロトコルとは「通信のための取り決め」。順番・形式・意味について両者が合意していなければ通信は成立しない。Aはハードウェアの話、Bは伝送速度(bps)の話、Dは暗号技術の話で、いずれもプロトコルそのものではない。
問2. ネットワークを「階層」に分ける主な理由として、最も適切なものを1つ選べ。
次の選択肢から最も適切なものを選択してください。
A. 階層化すると通信速度が物理的に速くなるため
B. 機能ごとに分担でき、ある層だけを差し替えることができるため
C. 階層化することでデータが暗号化され安全になるため
D. 各国の法律で階層構造を取ることが義務付けられているため
正解:B
階層化の目的は「分担」と「交換可能性」。たとえば下の層を有線LANから Wi-Fi に変えても、上のWebブラウザを書き直さずに済む。Aは誤解(階層化自体は速度を上げない)、Cも誤り(暗号化は別の仕組み)、Dも誤り(技術的設計の選択であり法律ではない)。
問3. TCP/IP モデルの4つの層を「上から下」の順に並べたものとして正しいのはどれか。
次の選択肢から最も適切なものを選択してください。
A. リンク → インターネット → トランスポート → アプリケーション
B. アプリケーション → インターネット → トランスポート → リンク
C. トランスポート → アプリケーション → リンク → インターネット
D. アプリケーション → トランスポート → インターネット → リンク
正解:D
TCP/IP の上から順は「アプリ→トランスポート→インターネット→リンク」。Aは下から上の順序、Bはトランスポートとインターネットが入れ替わっている。「Webブラウザ(アプリ)→TCP(信頼性管理)→IP(道順)→Ethernet(隣まで運ぶ)」とイメージするとよい。
問4. 「カプセル化」の説明として正しいものを1つ選べ。
次の選択肢から最も適切なものを選択してください。
A. 送信時に各層が自身のヘッダを上位層のデータに付け足していくこと
B. データを暗号化して中身を読めなくすること
C. パケットを丸ごと圧縮してファイルサイズを小さくすること
D. 受信したデータを内部に保存しておくこと
正解:A
カプセル化とは、上の層のデータに各層が自身のヘッダ(宛先や管理情報の付箋) を付け足していく処理。封筒に封筒を重ねていくイメージ。Bは暗号化、Cはデータ圧縮、Dはバッファリング/キャッシュの話で、別の概念。
問5. 次のうち トランスポート層 のプロトコルに分類されるものを1つ選べ。
次の選択肢から最も適切なものを選択してください。
A. HTTP
B. IP
C. TCP
D. Ethernet
正解:C
TCP(と UDP)はトランスポート層。HTTP はアプリケーション層、IP はインターネット層、Ethernet はリンク層。よく「TCP と IP は同じ層」と勘違いされるが、別の層に属するプロトコルで、組み合わせて使うことから「TCP/IP」とまとめて呼ばれている。